KORG はアナログ・シンセサイザーの復刻に力を入れているようで、ここ数年で多くの製品がリリースされていますが、その中でちょっと気になるガジェットを発見したので購入してみました。
アナログ・シンセサイザーに興味はあるのですが、本格的なアナログ・シンセサイザーとなるとお値段・置き場所などと相談が必要なので、まずは手軽に遊べる monotron DELAY を試してみます。
KORG アナログシンセサイザー monotron DELAY モノトロン ディレイ
KORG(コルグ)
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目次
monotron DELAY とは?
KORG から 2010 年に発売された手のひらサイズのアナログ・シンセサイザーである monotron の兄弟機という位置づけで 2011 年に monotron DUO とともに発売された製品です。
残念ながら初代 monotron は生産・販売が終了していますので、現在、手に入れることができるのは monotron DUO と monotron DELAY のみとなります。
KORG 手のひらサイズ アナログ シンセサイザー monotron DUO モノトロン デュオ シンプルなレイアウトで入門用に最適 スピーカー内蔵 ヘッドフォン使用可 どこでも使えるコンパクトサイズ
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初代 monotron はアナログ・シンセサイザーの基本的な構成 (1VCO、1VCF、1LFO) を無難に、シンプルにまとめた形になっていました。
それに対して、monotron DUO は音色を作ったりメロディを演奏するのに向いている構成 (2VCO with X-Mod、1VCF)、monotron DELAY は効果音の演奏に向いている構成 (1VCO、1VCF、1LFO + DELAY) となっています。
今回、私が購入したのは monotron DELAY ですが、購入前に monotron DUO と、どちらにしようか非常に迷いました。
リボン・コントローラー (指などで押さえて演奏する部分) がきちんとスケールに対応している monotron DUO と、目盛りはオマケでスケールの概念がなく、温度でピッチが変わってしまうまである monotron DELAY。
そんなの、monotron DUO がイイに決まってるじゃん!見た目も monotron DUO のほうがカッコイイですし。
でも、購入したのは monotron DELAY です。
決め手となったのは monotron DELAY には LFO がついている点と、monotron DUO は外部入力にフィルター (VCF) しかかけられないけど monotron DELAY はフィルターとディレイがかけられる点です。
- monotron DELAY は LFO がついている
- monotron DELAY は外部入力にディレイもかけられる
- monotron DELAY のリボン・コントローラーに付いている鍵盤の絵は意味なし
- monotron DUO はリボン・コントローラーがちゃんとスケールに対応している
開封してみる
簡易な包装のパッケージからして、まぁこんなもんだろうとは思っていましたが、高級感は一切ありません。むしろ安っぽさが溢れており、本当にこんなオモチャでアナログ・シンセサイザーの音が鳴るのか?と不安になってしまいます。
同梱物は、本体、単 4 形電池 2 本、説明書。電池をつけてくれるのはありがたいですが、どうせなら高級感を少しでも出すために専用のポーチ (100 円ぐらいのでも良いので) を付けてくれたほうが嬉しかったです。
とか言いつつ、電池がついてるからすぐに遊べてイイネ!
鳴らす前にアナログ・シンセサイザーについて学ぶ
monotron DELAY はシンプルな構成のアナログ・シンセサイザーなので、5 つのツマミを適当にひねるだけでプゥォンプゥォンと面白い音が鳴ってそれなりに楽しめるのですが、それだとただのオモチャになってしまいます。
アナログ・シンセサイザーの基本を軽く予習してから、ツマミをひねくり回すことにしましょう。
アナログ・シンセサイザーの要素
アナログ・シンセサイザーは基本的に「音程」、「音色」、「音量」の 3 つの要素で構成されています。
これらが先ほど monotron の紹介のところでチラッと出てきた VCO、VCF、VCA というやつですが、3 文字の英語でしかも全部 VC で始まっちゃっててなかなかややこしい感じのヤツだなぁと思っちゃいますよね。
でも、この 3 つを覚えるだけで基本は大丈夫です。
- VCO (Voltage Controlled Oscillator) : 電圧で制御された発振器 (音程)
- VCF (Voltage Controlled Filter) : 電圧で制御されたフィルター (音色)
- VCA (Voltage Controlled Amplifier) : 電圧で制御されたアンプ (音量)
なんだか難しそうな単語ですが、VC (Voltage Controlled) の部分は共通なので、単純にオシレーター、フィルター、アンプと呼ぶこともあります。DAW などで使用するソフトウェア・シンセサイザーなどは、そもそも電圧制御 (VC) ではないので、VC が表記されていないものも多いですね。
VCO は音の素材
一般的なアナログ・シンセサイザーではノコギリ波、三角波、矩形波、サイン波などの波形が用意されており、オシレーターで基本となる波形を生成し、音の高さを決定します。
倍音を含んだシンプルな波形となりますが、これらの波形をもとにフィルターで倍音をカットしたりして音を加工していきます。
ノコギリ波 : ノコギリの形をした波形。すべての整数倍音を含み、明るい音です。
三角波 : 三角の形をした波形。倍音が少なく、やわらかい音です。
矩形波 : 四角い形をした波形。奇数倍音のみを含み、木管楽器などに向いています。
サイン波 : 倍音がなく、基音のみのシンプルな音です。
ちなみに、monotron DELAY はオシレーターの波形を選択することはできず、ノコギリ波に固定されています。
- monotron DELAY の VCO はノコギリ波に固定されている
- monotron DUO の VCO は VCO1、VCO2 ともに矩形波に固定されている
VCF は音の調理
VCO で生成された音は次に VCF へと送られ、フィルターを使用して倍音をカットすることで音色を加工します。
ローパス・フィルター (低音を通過させるフィルター)、ハイパス・フィルター (高音を通過させるフィルター)、バンドパス・フィルター (ある帯域だけを通過させるフィルター)、ノッチ・フィルター (ある帯域だけをカットするフィルター) などがありますが、よく使用されるのはローパス・フィルターです。
ローパス・フィルター
カットオフ周波数のツマミを上げると高音を通過させて明るい音に、ツマミを下げると高音をカットして暗い音になります。
VCF にはカットオフ周波数付近の音を強調することができるレゾナンス (PEAK とも呼ばれます) というツマミがあり、レゾナンスを上げていくことでよりクセの強い特徴的な音を作ることができます。
monotron DELAY の VCF はカットオフのみで、レゾナンスはありませんが若干レゾナンスの効いた音色になっているようです。
- monotron DELAY の VCF はレゾナンスがない
- monotron DUO の VCF はレゾナンス (PEAK) を調整できる
VCA は音量
音は最後に VCA に送られ、音量の調整を行いますが、VCA 自体は音量を決めることしかできません。音が一定の音量で鳴るだけですから、鍵盤を押したらピーと鳴り、離したら音が止まるというただそれだけの装置になってしまいます。
そこで、多くのアナログ・シンセサイザーにはエンベロープ・ジェネレーター (EG や ENV、ADSR と表記されます) という機能がついており、あらかじめ A、D、S、R という 4 つの値を設定しておくことで時間の経過に応じて音を変化させることができるようになっています。
このエンベロープ・ジェネレーターを VCA に使用することで、音量を経過時間によって変化させることができるようになります。
- monotron DELAY は VCA もエンベロープ・ジェネレーターもない
エンベロープ・ジェネレーター
エンベロープ・ジェネレーターを VCA に使用した場合を考えてみます。
アタック・タイム (A) は打鍵後に音が最大になるまでの時間、リリース・タイム (R) は鍵盤を離してから音が消えるまでの時間です。
サステイン・レベル (S) は鍵盤を押している間鳴り続ける音量、ディケイ・タイム (D) は最大になった音が減衰してサステイン・レベルになるまでの時間です。
例えば、ピアノやギターのように鍵盤を押した瞬間に音がでる楽器はアタック・タイムを短く、バイオリンのようにフワッと音が鳴り始める楽器はアタック・タイムを長めの設定にします。
多くの楽器は音を止めてもわずかに音が響きますが、リリース・タイムを少し上げるとそのような心地よい残響を再現することもできます。
エンベロープ・ジェネレーターは VCA だけでなく、VCF や VCO にかけることも可能です。
VCF にかけて打鍵後にフィルターをゆっくり開き、全開になったら徐々に閉じさせるようなことができますし、VCO にかけて打鍵後に音程を変化させてアグレッシブなサウンドを作り出すこともできます。
音に変化をつけるためのエンベロープ・ジェネレーターですが、monotron DELAY には搭載されていません。
LFO (Low Frequency Oscillator)
エンベロープ・ジェネレーターは音を変化させる機能でしたが、もう一つアナログ・シンセサイザーで音を変化させる機能として LFO というものがあります。
LFO はその名の通り、低い周波数の波を発振する装置ですが、LFO で発振された低い周波数の信号を VCO や VCF に入力することで波のような変化を与えることができるようになります。
VCO、VCF、VCA それぞれに LFO で波をかけてみると、音程 (VCO)、音色 (VCF)、音量 (VCA) が波打った状態になることは想像できます。
- LFO を VCO にかけると音程が波打つ (ビブラート)
- LFO を VCF にかけると音色が波打つ (ワウ)
- LFO を VCA にかけると音量が波打つ (トレモロ)
monotron DELAY では LFO の波形として三角波 (リア・パネルでノコギリ波に変更可能) と矩形波 (リア・パネルでデューティ比を設定可能) が用意されており [RATE] で周波数、[INT.] で変化のかかり具合を調節できるようになっています。
三角波 : 上下を均等に繰り返す汎用的な波形。
矩形波 : 2 つの値のみを繰り返す波形。
- monotron DELAY の LFO は VCO にかかる
monotron DELAY の特徴
monotron DELAY は VCA、エンベロープ・ジェネレーターこそ搭載されていないものの、VCO、VCF、LFO というアナログ・シンセサイザーの基本的な機能が搭載されており、さらにアナログ・エコー・ライクなディレイまで搭載されています。
1VCO、1VCF、1LFO、1DELAY 構成
VCO (ノコギリ波) + LFO (三角波・矩形波) → (AUX) → VCF → DELAY の順番で音が生成されます。AUX は VCF の直前に位置していますので、外部入力で取り込んだ音に対してはフィルターとディレイがかけられます。
アナログ・エコー・ライクなディレイ
ディレイというのは原音に対して遅れた音を付加する効果のことで、やまびこのように反射音が徐々に小さくなりながら続いていきます。
monotron DELAY では TIME (ディレイ・タイム) という、原音に対してどれくらい遅れるかを決めるツマミと、FEEDBACK (フィードバック) という、ディレイ音が繰り返される回数を決めるツマミが搭載されています。
アナログ・ディレイの中にはディレイ音をアナログ・テープで作成する「テープ・エコー」というものがありますが、monotron DELAY に搭載されているディレイはテープ・エコーで生じるアナログ独特の太くて温かみのある質感を再現しています。
ポイント テープ・エコーはディレイ・タイムをリアルタイムに操作することでテープの速度の変化に伴って音のピッチが変化する面白い効果を得られますが、monotron DELAY でも見事に再現されています。
MS-10 / MS-20 と同じ VCF 回路
1978 年に KORG が発売したモノフォニック・シンセサイザー、MS-10 / MS-20 と同様のフィルター回路が搭載されているので、アナログ独特の太くて粘りのある強力なサウンドを放ちます。
KORG アナログ モノフォニック シンセサイザー MS-20 mini MIDI IN/USB端子搭載 パッチケーブル付属
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当時のアナログ回路を完全再現。
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monotron DELAY の本体に内蔵されている小型スピーカーでは本来の実力を発揮することはできませんが、ヘッドホン (3.5mm ステレオ・ミニ・ジャック) 端子にヘッドホンやオーディオ機器を接続すると、小さな本体からは想像もできないような本格的なアナログ・シンセサイザーの音が出力されます。
リボン・コントローラー鍵盤
ワイド・レンジ・リボン・コントローラー鍵盤が搭載されており 4 オクターブの幅で演奏が可能とのことですが、リボン・コントローラーの大きさからして指が細い人でも 4 オクターブの音階を弾き分けるなんてことは相当難しいと思います。
monotron DUO と違って monotron DELAY はそもそも鍵盤がスケールに対応していないので、リボン・コントローラーの鍵盤の絵はオマケのようなものです。
そうそう。この鍵盤の白鍵ですが、蛍光塗料が塗られており、消灯時にブラックライトを当てると光るらしいですよ。(ブラックライトを持っていないので試せませんでしたが)
monotron DELAY の使い方
これまでアナログ・シンセサイザーの基本と、monotron DELAY の仕様などを見てきましたが、一応、使い方をご紹介しておきます。と言っても、かっこいい演奏の仕方などではなく、本当にただの使い方ですのでご了承ください。
接続してみる
monotron DELAY 単体でも効果音を鳴らす装置としてなら十分に楽しめるのですが、AUX に iPod などを接続することで外部入力の音にフィルターをかけながらの演奏が可能になります。
シーケンサー機能が搭載されている DS 用ソフトの KORG DS-10 や iOS 用アプリの KORG iDS-10 などがあれば打ち込みの曲やリズムを外部入力として使えるのですが、私は持っていませんでしたのでコレを使ってみることにしました。
ゲームボーイとポケットカメラです。
チップチューンでおなじみのゲームボーイと、ゲームボーイ用の音楽制作ソフトである nanoloop のモトネタとなったといわれている、ポケットカメラの DJ モードを使用しました。
接続方法は簡単。monotron DELAY の AUX 端子と iPod など (今回はゲームボーイ) のヘッドホン端子を AUX ケーブルで接続するだけです。
これで外部入力の音は monotron DELAY の中でモノラル・ミックスされて、monotron DELAY の内蔵スピーカーまたはヘッドホン端子から出力されます。
AUX ケーブルはセリア (100 円) のものを使用しました。
使ってみる
monotron DELAY の電源は STAND BY と書かれている部分のスイッチを波形の絵の部分に切り替えることでオンになります。
私はリア・パネルのヘッドホン端子に AUX ケーブルで録音機材を接続しました。ヘッドホン端子はステレオなので、モノラルケーブルを接続すると故障の原因になりますのでご注意ください。
電源をオンにして鍵盤を押さえても音が出ない場合は、リア・パネルの VOL で音量が小さくなっていないか、フロント・パネルの CUT OFF のツマミがゼロになっていないかをご確認ください。
ポイント 音階があるわけでもないので音楽の知識がなくても鍵盤を適当に押せばそれっぽい音が出ますが、それぞれのツマミの役割を把握してから触ってみるとさらに楽しさが膨らみます。
演奏してみた
ポケットカメラの DJ モードはサウンド 2 つ (メロディ + ベース)、ノイズ 1 つ (ドラム) の 3 パートが使用できますが、 1 小節 (16 ステップ) までしか入力できず、パターンを作成して組み合わせたりすることもできませんから、非常に単調な曲が出来上がります。
DJ 的な操作としては各パートのオン・オフと、逆再生、効果音再生だけなので、これらを駆使しつつ monotron DELAY でリアルタイムにエフェクトをかけながら演奏してみましょう。
テキトーに録音中……。
猫の手も借りたかったです。
monotron DELAY の鍵盤を押さえながら CUT OFF のツマミを回しつつゲームボーイの操作をするのは無理ですね。洗濯ばさみで鍵盤を挟んだりして工夫してみました。
まとめ
monotron DELAY の音は、まさにアナログ・シンセサイザーの太さを感じました。
ついでに、ゲームボーイのピコピコ音も monotron DELAY を経由することでアナログ的な温かみのある音になりますが、モノ・ミックスされてモノラル音声になってしまうのはちょっと残念です。
- 外部入力もいい感じのアナログ感が付加される
- 手が足りない場合は洗濯ばさみで鍵盤を挟むと良い
- monotron DELAY の音は本当にアナログ・シンセサイザーの音だった
monotron DELAY を購入してからというもの、暇さえあればツマミをひねって楽しんでいます。
ゲームボーイに限らず、iPhone アプリなどの音楽を鳴らせるツールと組み合わせることで楽しさが倍増する monotron DELAY、みなさんもぜひ遊んでみて、シンセの楽しさに触れていただければと思います。
ちなみに、ゲームボーイとポケットカメラ、どちらもハードオフで 100 円でした。
次は KORG volca keys が欲しくなってきました……。
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